エネルギーを大量投入して生物多様性を喪失してしまう近代農業。その解決策として注目される多年生穀物は、毎年耕す必要が無く、環境を再生する食料生産の鍵を握っている。
風味を追いかけて
正しい唐辛子への長年の探求お気に入りの曲が絶えず頭のなかをめぐるように、ひとたび口にしたある味が脳裏に焼きついてはなれないことがあります。
パタゴニアの創業者イヴォン・シュイナードとアルゼンチン産の粗挽きの赤唐辛子、アヒ・モリドはそうした状態でした。
Photo: Chris Jones
1968年、イヴォンは数人の仲間とフィッツロイ登攀を目指して南米パタゴニアに行きました。そこで天候の回復を何週間も待ちつづける間、地元のガウチョ(カウボーイ)たちと一緒にキャンプや食事をすることになりました。ガウチョは羊の肉を焼き、切り込みの入ったコルクで栓をした古いワインボトルから、乾燥させたハーブとアヒ・モリドを散りばめたニンニクと酢の効いたソース、チミチュリを熱い肉に振りかけました。アヒ・モリドは常温で数週間保存できるこのソースに風味豊かなコクのある、ほどよい辛さを加えていました。
チミチュリには数百のバリエーションがありますが、イヴォンの見解では欠くことのできない材料はアヒ・モリド(「粉末唐辛子」の意)で、ソースに幾重もの繊細な辛さを加えるものは他にはありません。それはアルゼンチンではアヒ・クリオージョとして知られている、長い赤唐辛子から作られたものでした。
その後何年も探しつづけ、イヴォンがようやく納得のいくアヒ・モリドを見つけた唯一の場所はブエノス・アイレスの香辛料店〈エル・ガト・ネグロ〉でした。彼はこの店に行くたびに大量に購入して冷凍保存し、チミチュリソースを作ったり、肉や芋や瓜や穀物などさまざまな食べ物の味つけに使いました。
やがてイヴォンはカリフォルニアの自宅で種から育てようとしましたが、できた唐辛子は辛すぎました。それからさらに数年が経ちました。
最終的に2017年に、パタゴニアの食品事業であるパタゴニア プロビジョンズのチームの協力を得て、イヴォンはアヒ・クリオージョのまさに適切な調達先を見つけました。アルゼンチンのサルタ州の標高2,500メートル地点で唐辛子を栽培している香辛料会社〈モリノ・セリヨス〉です。
(右)アルゼンチンのサルタ州の山々の高地で採取された唐辛子は、トラックで〈モリノ・セリヨス〉の工場へと運ばれ、そこで粉砕され、蒸して殺菌される。 Photo: Galen McCleary
同社は、標高の高さと乾燥した空気、限られた灌漑、荒れた石灰岩の土壌という組み合わせのせいで植物は生き残りのために闘い、その結果(厳しい状況で栽培されたブドウがワインに特徴を加えるように)より深い、より豊かな風味を生み出すと信じています。唐辛子の辛さを和らげる要素は、おそらく気温が摂氏32度を超えることがなく、つねに10~16度を保つ気候のせいだと考えられます。
モリノ・セリヨスはプロビジョンとの協働でアルゼンチン初のアヒ・クリオージョのオーガニック栽培に取り組むべく、化学肥料を撤廃して堆肥を導入しました。農場は州都サルタから離れた土地にあり、岩だらけの川を越えながら未舗装の山道を何時間もかけて運転しなければならないため、何かひとつのことを変えるだけにも困難をともないます。新しいサプライヤーを招いたり、オーガニック認証を受けるためにブエノス・アイレスから監査官の派遣を手配するなどの苦労もありました。
収穫期の5月には、この唐辛子は真っ赤に熱し、枝に実らせたままの状態で乾かされた、風味を凝縮させます。実が乾燥しはじめたら鮮やかな色を保つために、株ごと引き抜いて木陰に寝かせます。それから実が摘まれ、サルタの街にあるモリノ・セリヨスの工場へとトラックで運ばれます。そこで粉に挽き、すばやく蒸して殺菌したものがアメリカへと輸送されるのです。プロビジョンズではこの素晴らしい唐辛子を数種の食品にブレンドし、さらなる可能性も検討中です。
長い歳月を経たアヒ・モリドの正しい調達先の探求は、最高の風味は産地に根差すという有用な教えでもありました。
Photo: Beth Wald
オーガニック・アヒ・モリド
パタゴニア プロビジョンズがお届けする、新たなスパイス製品の要となるのがアヒ・モリドで、チミチュリやタコス・シーズニングに調味料の主役として含まれているだけでなく、単独でもお求めいただけます。RO チリ・マンゴーのスナック、スパイシー・レッドビーン・チリなど、そのまろやかな辛さとコクのある豊かな風味を融合したプロビジョンズ食品も増えつづけています。ブエン・プロベチョ(どうぞ召し上がれ)!