エネルギーを大量投入して生物多様性を喪失してしまう近代農業。その解決策として注目される多年生穀物は、毎年耕す必要が無く、環境を再生する食料生産の鍵を握っている。
より良いパッケージへの取り組み
私たちにはパッケージの課題があります。現在行っている取り組みをご紹介します。
パタゴニア プロビジョンズで作られるすべての食品は、環境を修復する方法で調達されており、私たちはその成果を誇りに思っています。しかし、同様に高い基準を満たすパッケージ素材を見つけることは困難な挑戦で、より長い道のりとなっています。
私たちの食品はどれも保存期間が長く、そのほとんどがしなやかな袋やスリーブに収められています。食品の品質維持と安全性を最優先するため、酸素と水分の侵入を防ぐ素材を使用しなければなりません。どちらも食品をすぐに劣化させてしまうからです。例えば、酸素はフルーツ+アーモンド・バーを茶色に変色させ、乾燥させます。水分はスープミックスが固まってしまう原因になります。食品業界全体で最も広く使用され、私たちも使っている最も効率的なフレキシブルパッケージの素材は、複数の基材を貼り合わせて作られるフィルムです。一般的には、パッケージデザインを印刷することもできる耐熱プラスチックです。湿気と酸素を遮断するために非常に薄いアルミニウム層でコーティングし「金属化」させたもの、あるいは穴が開きにくく密封可能なプラスチックなど、その他数種類のプラスチックもあります。
残念ながら、リサイクル工場では単一基材の物しか受け入れないため、私たちのパッケージは該当しません。また、従来のプラスチックで作られているパッケージは、堆肥にすることもできません。つまり、分解されるのに数百年かかる埋め立て地に行くか、海の中に流れ出るということです(2050年までに、海では魚よりもプラスチックが多くなる可能性があると予測されています)。あらゆる面において責任ある食品生産に取り組んでいる私たちのような企業にとって、重要な問題だと認識しつつ誰も口に出したくない、つまり皆それに気づいているのに見て見ぬふりをする「部屋の中のゾウ」なのです。
ではなぜ私たちは、堆肥化が可能なパッケージを使わないのでしょうか?いくつかの理由があります。米国で使われる堆肥化可能なパッケージのほとんどは、遺伝子組み換え(GMO)コーンから作られています。現在のところアメリカでは義務化されていませんが、私たちはGMO商品にラベルを付け、口にする食品や購入する製品に何が入っているかを消費者が見分けられるようにすべきだと考えています。従って、GMOの堆肥化可能なパッケージは私たちにとって選択肢とはなりません。その他の堆肥化可能な選択肢を試してみましたが、従来の素材と同じ遮断性能や密閉力がありませんでした。食品業界にいる仲間の中には、これらの非GMOの堆肥化可能な代替製品を賞賛して採用した企業もありましたが、その結果、製品が保存期間テストを通過しなかったり、棚から軽く落ちただけですぐに破損して開いてしまうことがありました。
進むべき道
その代わりに私たちは、製品ごとにより適したソリューションを見つけることに努力を傾けました。しかし、それには時間がかかります。数年にわたり私たちは、カリフォルニア大学バークレー校ハース・スクール・オブ・ビジネスで、パタゴニア・ケース・コンペティションを後援してきました。世界中の大学院生が競いあって、当社が克服したいと願っている持続可能性を阻む障害の解決に挑みます。2019年は、これらPhDやMBAの候補者たちに食品パッケージの再開発を依頼し、提案されたソリューションは、私たちが現在も研究をつづけている複数のアイデアの源となりました。再利用可能な容器や海藻から作られたフィルム、微生物用の栄養増強剤を加えてより早くパッケージの分解が進むようにした生物分解性のパッケージ、他にも多くのアイデアがあります。
また、パタゴニアは、堆肥化可能なパッケージの製造に力を注ぐ業界団体〈One Step Closer to Organic Sustainable Communities(OSC2)〉の主要メンバーでもあります。この春、OSC2は、フィルム製造業者、食品製造業者、流通業者、小売店、消費者、廃棄物管理会社を含むパッケージチェーン全体の関係者を対象に、この種の試みとしては初となる革新的なワークショップを共同開催します。ペプシコのような大手企業が参加登録済みで、このワークショップがどこにつながっていくかを見るのが楽しみです。
一方で私たちは、他のOSC2企業と共に知識や購買力を出し合い、また新たな素材のテストを行って多くの前進を遂げてきました。
これまでの歩み
最高となる基準は、家庭で堆肥化可能なパッケージです。すべての自治体が堆肥化を実行しているわけではないからです。また、産業堆肥化の規則は地域ごとに異なるため、消費者が何をどのように堆肥化すべきかを正確に知ることは困難です。
そこで、ここ数年にわたって私たちは、さまざまな非GMOの堆肥化可能なフィルムを調べてきました。最も有望な素材の1つは、透明なNatureFlex™で、これはセロハンのような見た目で、カサカサした音を立てるユーカリパルプから作られた耐酸素性フィルムです。実際、NatureFlexは、1908年に木材パルプから発明され、キャンディーの包装に使われたオリジナルのセロハンにとてもよく似ています。ただし、セロハンは非生物分解性ポリマーでコーティングされて、湿気の遮断やヒートシールを可能にしていました。NatureFlexの利点は、完全に堆肥化可なポリマーでコーティングされていることです。これは、私たちにとって最初のゼロウェイストのパッケージであり、魅力的な循環性を備えています。ユーカリは持続可能な方法で管理された農園から供給され、パッケージ自体は分解されて土に戻っていくのです。新しいスパイス製品シリーズでNatureFlexを使用し、中身を詰めた個包装のスパイスを、再生紙で作られた箱に収めます。
しかし、NatureFlexにも課題があります。パッケージを密閉するための圧着箇所は、家庭で堆肥化可能の認証を受けるには厚すぎる可能性があります。テストの合格は楽観視していますが、さらに何回かの試行が必要になるかもしれません。また、このタイプのNatureFlexフィルムはインクを吸着しないため、州法で義務付けられているようにパッケージに「compostable(堆肥化可能)」と印刷することができません。印刷の代わりに、フィルム自体へのエンボス加工を検討しています。
より強固な保護を必要とする他のフレキシブルパッケージ入りの製品には、植物由来のラミネートで実験を行ってきました。各基材はそれぞれ個別に堆肥化可能とすでに認定されていますが、私たちは基材を重ねているため、この素材は産業堆肥化されなければなりません。つまり、管理された条件下で、完全に堆肥化されたことを確認する必要があるのです(左欄の「パッケージ用語集」を参照)。
私たちは約4年前にラミネートのテストを開始し、最上層に透明なNatureFlexを利用して、そこに堆肥化可能なインクで裏面印刷を施しました。酸素や湿気、そして熱に対する強力な遮断性が必要だったため、気化したアルミニウムでコーティングしたもう1層のNatureFlexにそれを貼り合わせました。驚いたことに、その薄さなら、微生物が分解可能だったのです。しかし残念ながら、すべての層を組み合わせたフィルムは厚すぎて、充填機を効率的に通過させることができませんでした。
今後の見通し
一方で私たちは、別の有望な素材の研究もつづけてきました。今はまだその正体を明かせない、植物由来の非GMOポリマーです。金属加工を施したNatureFlexよりも30%薄い素材です。高い期待を抱きながら、この素材をテストに加えました。
しかし、新しい問題が発生したのです。フルーツバーの包装では閉じ合わせた箇所が開いてしまうことがあり、スープの袋は伸びたり、しわが寄ったりしがちです。そこで今は、フルーツバーの包装では閉じ目の幅を広げて機械で挟みやすくし、スープ用には新しい充填機を構築しています。さらなる方向転換で、さらに時間がかかります。しかし私たちは、決意に満ちていますし、パートナーたちも同様です。
機械の問題を解決した後は、保存期間のテストを開始します。これには数か月かかります。次に、堆肥化認証を申請します。その後ようやく、私たちの食品は中身に相応しいパッケージに収められることになります。
最初から適切なパッケージがあった製品もあります。ビール(リサイクル可能なアルミ缶を使用)、ムール貝とサバ(アルミ缶)、蜂蜜(リサイクル可能なガラス)、そして箱(再生された段ボールや板紙を使用、箱自体もリサイクル可能)です。今、私たちは目標を達成する機会を手にしています。それは2025年までに使用するパッケージを、再利用可能あるいは堆肥化可能で、しかも再生された材料もしくはリサイクル材料から作られた素材のみにすることです。
じつのところ、私たちにはその予定よりもはるかに早くに目標を達成する可能性があり、その発見はより広範な食品業界と共有されることになるでしょう。それは長いトンネルの終わりにある光であり、例のゾウの追放でもあるのです。