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サーモンの国のシンプルな慣習

リズ・ウッディ
Ian Mcallister

私たちに初めて豊かさを教えてくれたのは、サーモンでした。

ロングハウス(複数の家族がともに暮らす長屋)では、その長となる家族が、愛する者の誕生、名付け、功績を祝い、そして最後はその死を悼んでギフトを贈ります。それは、「贈り物(Giveaway)」と呼ばれていました。

サーモンは産卵の時、最後の「贈り物」で次の世代を祝福します。地球上で最も生物学的に多様な森は、サーモンの大量死が生み出しました。何百万年もの間、サーモンはそのように訪れては去って行ったのです。計り知れないほど長い間、この雄大な「贈り物」は私たちに健康と再生をもたらしてきました。

贈る、受け取る、あるいは交換する行為は、常に有形の物が対象とは限りません。ダニエル・L・ボトムが『How Stories and Rituals Sustain Us』で書いているように、それは「コミュニティと土地のつながりを強めるための儀式、またはパフォーマンス」です。「手の込んだ芸術品や伝統、儀式により人びとはサーモンへの畏敬の念を示し、サーモンの利用を制限するための詳細な基本原則を定めました。物語や風習はうまく“機能”し、アメリカ北西部の文化とサーモンは数千年にわたって共存してきました。」

このような素晴らしいサーモンの遡上を見られる時代にここに住んでいたなら、興奮で肌がゾクゾクしていたでしょう。海から内陸へと魚の体内で運ばれる微量栄養素が、捕食者や土壌、木々、植物に命をもたらします。クマやオオカミ、鳥、人間がそのミネラルをさらに内陸へと運びます。コロンビア川の川岸から山頂まで歩いて行くことを想像してみてください。私たちの親戚とも言うべき小さな生物のそばを通り、その姿を目にし、匂いを嗅ぎ、その上を歩くことになるでしょう。マツやモミ、スギ、ジュニパー(ヒノキ科の常緑樹)を合わせた香りが私たちの心と体を清めます。ピアクシ、ザウス、ソウィトゥク、ワッカム、リュックスと呼ばれる食用の根菜類は、私たちの妹のようなものです。これは、かつて先住民族の食生活を支えた60種類の食用根菜のうち、現在にまで残っている根菜です。毎年、夏にまるまると太るシカやヘラジカ。ハックルベリーやチョークチェリーを通り抜け、澄んだ水の源となる山頂の雪まで山の斜面を登って行きましょう。自分がネイティブか、ネイティブではないと思うかは関係ありません。ここに生きる他の命と同じように、あなたも息をし、食物を摂取し、死ぬのです。

遡上するサーモンはすべてに栄養を与えます。飢えている者は川や川岸を探します。うねるような流れや霧に包まれた滝の上の足場でじっと待つ漁師は、慎重にすくい網を握ります。魚は次から次へと捕らえられ、漁師は流し網を川から引き上げて確認し、弧を描くように流し入れます。サーモンを川の中でいつまでも泳がせておく者はいません。

複雑な環境では、シンプルなことが役に立ちます。私が4歳の時に自然の中で一人歩きを始めると、祖父は私に言いました。「お前がどこかで道に迷ってしまったら、水を見つけて、それを下に追って行きなさい。すべての水は川に通じている。そうすれば、お前は家に帰れる。」リズミカルな言葉で、優雅に語られる水の話。私たちはあらゆる場所で受け入れられているのです。土地の知識は、口伝えで教わります。食事の前には、感謝を込めて4つの神聖な食べ物を少しずつ口にします。私たちは川から山へ、サーモン、シカ、根菜、そしてハックルベリーの順に食べ進めます。最後にベルを鳴らす者が「チュース!」と叫び、この言葉に合わせて私たちは水に手を伸ばします。水を飲み、あらゆる生物の精霊に呼びかけます。これが食物に感謝を捧げる私たちのやり方です。サーモンと同じように、私たちは水を必要としています。私たち自身が、いつの世も変わらぬサーモンを体現する者であり、永遠に続く産卵から生まれる者なのです。

精霊の言葉は、潜在的な知識を示しています。精霊に対する慣習に従って生きることで、私たちは、色々な事象が連なってできているこの世界で、自分が占めている位置を知ることができます。子どもから老人に至るまで、私たちは各自の役割や資質を受け入れ、最善を尽くします。誰もが多かれ少なかれそのように生き、どこまで他者に与えられるかを探ります。オカナガン族の教育者、ジャネット・アームストロングが『Ecoliteracy: Mapping the Terrain』の中で書いているように、この土地は本当に「広大で、そこでは複雑につながり合った行動様式が完璧に調和して機能している」のです。それが地球の豊かさのレガシーであり、私たちが受け継ぐものです。必要なものはすべて持っているのです。

しかし、時に人は、「必要とする以上に取らない」という基本的な教訓に従わない場合もあります。伝説ではある時、ツバメの姉妹がワシントン州ウィシュラムと、私が住むオレゴン州セリロ・フォールズの間に土のダムを造って川をせき止め、サーモンをため込みました。この飢えに関する物語では、子どもたちは泣き叫び、老人たちは懇願します。彼らは窮乏にあえぎました。コヨーテがこの姉妹をだまして魚を逃がし、その後もすべての魚が行き来できるようにしました。コヨーテはみんなのためにサーモンの遡上が永遠に続くことを約束しました。

創造主による自然の法則を破るのは人間だけです。動物は選択できません。正しいことと間違っていることを見分ける人間の能力は、時に私たちを自滅へと導きます。最善なのは、「この目的のために最も効率的で効果的な方法は何か」と自問することです。それが伝統的で根本的なやり方です。サーモンを利用した経済では、富をため込むのではなく、交換を通して与えることで富を拡大します。他者から必需品を奪うことはありません。それがサーモン・ピープルのやり方です。だからこそ私たちは、必要な分だけを取り、残りは増加させるという規則を守る必要があるのです。