エネルギーを大量投入して生物多様性を喪失してしまう近代農業。その解決策として注目される多年生穀物は、毎年耕す必要が無く、環境を再生する食料生産の鍵を握っている。
健康のはじまりは土から
栄養素は生きた土壌に依存するすべてのトマトが生まれながらにして平等ではありません。私たちはその違いが土壌からはじまると信じています。健康な土壌には夜空の星の数よりも多くの微生物が存在します。リジェネラティブ・オーガニック農業の優先項目である微生物の多様性を高めることは、フルーツ、野菜、ナッツそして穀物の栄養価を高めることを示唆する研究が増えつづけています。
土壌と栄養のつながり
土壌は命の基盤であり、それは私たちが食べる植物を通して私たちの体内に入る栄養素と生物活性化合物を作ります。第二次世界大戦後まもなくはじまった工業型農業は、私たちが口にする食物のほとんどを生産しますが、概して土壌の品質を劣化させます。そしてそれは栄養素にも影響を与えます。1950年から1999年にまたがる43の作物を覆った『Journal of the American College of Nutrition(米国栄養大学ジャーナル)』の研究は、タンパク質、ビタミンB2、ビタミンCを含むほとんどの栄養素の衰退を示しています。『HortScience』によるもうひとつの研究では、それと同時期に収穫高が2倍となった穀物においては、タンパク成分が顕著に減少したことを示しています。穀物が世界的に食の定番であることを考えるとき、それは懸念すべきことです。
その反面、健康な土壌はより栄養密度の高い植物を生産することが研究で示されています。カリフォルニア大学の10年にわたる研究によると、オーガニック・トマトは従来農法で生産されたものと比較して(抗癌作用のある)フラボノイドが高いことを示しました。アイルランドの研究者はタマネギの抗酸化物質の研究にて同様の関連性を発見しました。そして1981年以来、従来農法とオーガニック農法を並行して比較してきた〈ロデール・インスティテュート〉は、オーガニック栽培による作物の方がより高い栄養素を持つことを発見しました。ある研究ではアルツハイマー病のリスクを削減する可能性のあるエルゴと呼ばれる抗酸化物質はオーガニックかつ不耕起栽培のオート麦により多く含まれ、また別の研究ではオーガニック小麦にはより多くのアミノ酸が含まれていることを発見しました。ロデール・インスティテュートの2020年の白書『The Power of Plate(食器の力)』はいくつかの最も有能な研究を調査し、土壌の健康と人間の健康の関連性をより調査すべきであることを強く示唆しています。
土壌から腸内微生物叢へ
土壌がそれ自身の宇宙であるように、人間の腸内も同じです。私たちの胃と腸には何兆もの細菌が生息し、免疫性を管理し、炎症を削減します。多岐にわたる腸内微生物叢は、2型糖尿病、認知機能やその他の慢性疾患の危険性の低下と関連付けられています。
従来農法の土壌で育てられた加工食品に満ち、オーガニック農産物の少ない現代の食生活は私たちの腸内の微生物を低下させてしまっています。エメラン・メイヤー博士がその著作『腸と脳』にて引用するある研究では、北米の都会人の腸内微生物叢の多様性は、現代農法がまだ普及していない狩猟採集社会の人のそれと比較しておよそ40%低いことが判明しています。アメリカ疾病予防管理センターのワン・ヘルスのような組織の専門家たちは、これが土壌の健康と腸内の健康の間の直接かつ重要なつながりを示唆しており、さらなる研究に値すると信じています。
世界中の科学者と農家は、リジェネラティブ・オーガニック慣行にて生産されるような豊かで肥沃な土壌と栄養素とのつながりを決定的に証明する長期的かつ慎重に管理されたテストに取り組んでいます。それまでの間、人と地球への害を削減し、明らかに善を為す方向に進まない理由はありません。