植物ベースのチリの台頭
アメリカで人気のチリといえば、かつては牛肉をチリペッパーと南西部の香辛料で味付けした大きな具入りのテキサス流チリコンカーンでした。しかし最近では豆を使ったものが主流になってきています。ここではその変化がどのように起こり、それが私たちや地球の健康にどのような影響をおよぼすのかについてご紹介します。
チリの歴史はいつに遡るのでしょう?ある人は少なくとも500年前にアステカ族が唐辛子でシチューを作った時からだと言います。別の人はテキサス開拓時代のカウボーイたちが、乾燥した牛肉と唐辛子を凝縮させた固形食を熱湯で戻したのがはじまりだと言います。さらにスペインのカナリア諸島からの移民が18世紀半ばにサンアントニオに辛いシチューを持ち込んだことに由来するという説もあります。しかし広く知れ渡っているのは、伝説的なサンアントニオのチリ・クイーンたちがチリをカルト的な地位に持ち上げたというものです。19世紀後半、夕刻になると彼女たちはサンアントニオの広場に集まり、ランタンを灯したワゴンでチリソースとクミンで味付けした香り高い肉を売っていました。それは1930年代に入るまで人気を博し、このスタイルは1894年のシカゴ・ワールド・フェアで大ヒットしました。テキサスのチリコンカーンは瞬く間にアメリカ全土に普及したのです。
シンシナティのチリスパゲティ、ニューメキシコのグリーンチリソースやレッドチリソースなど、バリエーションは地域によって異なりますが、20世紀半ばまでアメリカでは豆を使わない牛肉たっぷりのテキサス流チリが主流でした。テキサス州ターリングアで毎年開催されるチリ料理コンテストでは、肉がたんまりの「赤いボウル」のブームを煽りました(コンテストのテーマ曲は『あなたがチリについての豆知識があるとしたら、チリには豆がないことを知っている』というタイトルでした)。
しかし誰もが知っているように、近頃のチリには豆が入っているものが多く、肉が一切入っていないない豆だけのチリも増えています。テキサスの奥地に住んでいない限り、もしそうであっても、豆の入ったチリの1つや2つに出会うでしょう。それは肉から植物へと年々加速する私たちの食習慣の大きな変化をチリが反映しているからです。
私たち(少なくとも私たちの一部)は、1960年代のカウンターカルチャーのベジタリアン(菜食主義)とともにこの道を歩みはじめました。しかし2005年に出版された『チャイナ・スタディー』で紹介された「植物ベース」の食習慣の登場までは、野菜をより多く取ることはハードコアかつ「非主流」であり、全員にとって達成しやすいものには思えませんでした。この本は植物を主食にすることと健康を強く関連付けました。そして、それは肉を追放したのではなく、肉の摂取量を減らすことを助言しただけです。突如としてどんな食習慣も食卓で歓迎されるようになりました。
〈ミートレス・マンデー〉のキャンペーン、マイケル・ポーランが著書『フード・ルール』で提唱した「食べ物を食べ、食べ過ぎず、なるべく菜食で」、ビーガンの理念を一般に広めた『フォーク・オーバー・ナイブス〜いのちを救う食卓革命』などの映画、アメリカのレストラン全体で植物をベースにした料理と食事を奨励した〈カリナリー・インスティテュート・オブ・アメリカ〉の「変革のメニュー」などにより、この会話は広まりました。
しかし植物ベースの食品を普及させる最大の原動力は環境問題かもしれません。気候科学者によると(放牧の草食飼育に対する)従来の肥育場は、世界中の温室効果ガス排出量の14〜18%を占めることがわかっています。植物、とくにマメ科植物はこの温室効果ガスを削減し、気候変動に対処する方法を提供します。
以上が、私たちプロビジョンズが豆ベースのチリ——自社のものであっても店で売っているものや自分で作るものであっても——を推奨する理由です。クミンや唐辛子で味付けし、植物性たんぱく質と風味豊かなこの「赤いボウル」の利点はひとつに留まりません。