多年生穀物「カーンザ」
革新的な穀物「カーンザ」により、傷んだ土壌を修復し、窒素汚染から地下水を保護しつつ、世界に食糧を供給しようという気運が高まっています。この変化を加速させるため、私たちは2016年にカーンザを使用した世界初の製品となる美味しいビール「ロング・ルート・ペールエール」を発売しました。
栄養:土壌に良し、人間に良し
多年生穀物カーンザは、一般的な小麦の品種よりたんぱく質、食物繊維、一部の栄養素を多く含みます。
小麦、米、トウモロコシなどの一年生穀物は世界の作物農地の約70%を占めます。これに対してカーンザは多年生であり、同じ場所で何年も生育します。このため根が複雑に絡み合い、表土の微生物の栄養源となります。同時にカーンザはこの長い根によって一年生穀物には届かない地中深くの水や栄養素を吸収します。その結果、収穫した穀物は一年生穀物に比べて美味しいうえに、食物繊維、植物性たんぱく質、必須アミノ酸を多く含みます。目や心血管代謝に良く、抗酸化作用の強いカロテノイド、ルテイン、ゼアキサンチンも豊富です。
食糧の調達先:米国の農業地帯
パタゴニア プロビジョンズのカーンザを育てているのは、リジェネラティブ(環境再生型)農業に取り組む米国の農家です。
1,000年以上にわたり米国中西部の平原は世界で最も豊かな表土を誇っていました。しかし150年におよぶ工業型農業により、今では合成肥料なしに穀物を安定して生産できなくなっています。一方、家族経営の農家は気候変動の影響をまともに受けています。洪水、干ばつ、季節外れの天候は決して珍しくありません。カーンザはこの両方の問題に対処するチャンスを農家に与えます。
カンザス州〈フリー・ステート・ファームズ〉のジョシュ・スヴァティは語ります。「多年生穀物には期待が持てます。農家にとって重要なのは、粘り強い農業、つまり激しい環境の変化にも適応できる形の農業です。カーンザのような多年生穀物はそれを実現します」
パタゴニア プロビジョンズのビールに使用される多年生穀物のカーンザは、土壌の健康が優先される有機認定農場で栽培されます。一年生の小麦と異なり、栽培は2~3年、あるいはそれ以上続きます。収穫後、一般に農家は茎を畑に残し、牛などを放牧して自然に土に栄養が行き渡るようにします。
環境:多年生穀物という解決策
カーンザの栽培により、提携農家は痩せた表土の再生と侵食を防ぎ、地下水の保護に貢献することができます。
カーンザの根は、最大3.6メートルも地中に伸び、土壌有機物の補充を助ける何十億もの微生物に栄養を与えることで、長期的な土壌の健康を維持します。根は近くの河川に流入すれば、水生生物に悪影響を与える窒素などの栄養素を継続的に吸収し、さらに巨大な根は貴重な表土を固定し、風雨による侵食を防ぎます。
小麦や米、トウモロコシのような一年生穀物は、化石燃料を動力源とする農機具で1年ごとに植え付け前に耕起、を必要とします。多年生植物であるカーンザは、ほとんど耕起なしで複数年にわたる穀物栽培が可能であるため、化石燃料の使用も最小限に抑えることができます。
歴史:起源は古代
カーンザは、より良い未来の種が過去にある可能性を示しています。
人類は歴史の大半において多年生植物を食糧としてきました。初期の人類は種実類や果物を主な食糧とし、アボリジニの焼畑農業や森林農法などの修復型農法を使用していました。しかし約1万年前から人類はトウモロコシや米などの一年生穀物に頼りはじめます。一年生穀物が人口の急増を支え、初期の農家はさらに収穫量の増加を迫られました。
20世紀になると化石燃料が食用作物の年間生産量を大幅に高めましたが、そのために土壌の健康が損なわれました。収穫ごとに農家は土壌が自然に蓄積する以上の栄養素を奪いました。現在、地球の穀倉地帯は合成肥料を使わない限り需要に対応できません。カーンザは、多年生穀物をリジェネラティブ農法で栽培するという昔からの考え方が、持続可能な未来につながることを実証します。
パートナー:科学に導かれて
カーンザの開発において〈ランド・インスティテュート〉は自然の教えに従いました。
ウェス・ジャクソンは、自然のままの平原では生態系が協調して土地を豊かにしていると考えています。逆に従来型の小麦畑は一方的な採取のシステムであり、生態系の破壊が起こると考えています。60年近く前、ジャクソンは平原の教訓を食用作物の生産に役立てるため、カンザス州サライナにランド・インスティテュートを共同設立しました。「人間は野生を基準として農作業を判断すべきだ」と、彼は語ります。
自然の平原の成功を見て、ジャクソンは多年生作物とポリカルチャー(複数の植物を一緒に育てる)にその秘密があることを悟りました。現代の食用作物の大半は一年生植物のモノカルチャー(単一栽培)です。ジャクソンは、野生植物がもたらす生態学的な利点と収穫量の多い栽培作物を組み合わせる方法がないか模索しました。
マッカーサー・フェロー奨学金を含め、後に多数の賞を受けたウェス・ジャクソンとランド・インスティテュートは、過去1万年で最も革新的な農業の進歩を実現したのかもしれません。カーンザは美味しいだけではありません。修復型多年生農業に向けた世界的な動きの起爆剤でもあります。
日本での取り組み
写真:パタゴニア日本支社
日本国内でカーンザの生育試験を行ない、その可能性の検証を進めています。
パタゴニア日本支社と、北海道大学大学院農学研究院の内田義崇准教授と中島大賢助教のグループは、カーンザを管理する<ランド・インスティテュート>との生育試験のみを目的とする正式な研究契約のもと、2022年夏より、北海道内にてカーンザの生育試験に取り組んでいます。 この実証研究により、2023年には1年目の結実を確認できました。2年目の作物も、旺盛に生長していることが確認されています。
この実績により、植物としてのカーンザの生育ならびに作物としての栽培可能性について、検証を進めていくことができます。この多年生穀物とそれによる農地利用に関する研究を進め、日本国内における将来的なポテンシャルについて検証を行ないます。
注意事項
種の譲渡や試験栽培圃場の見学に関する要望・質問には対応いたしかねます。あらかじめご了承ください。
本共同研究は、カーンザを管理する〈ランド・インスティテュート〉、パタゴニアおよび北海道大学による研究契約に基づき、本研究目的に限定して適切かつ厳重にカーンザを管理して行われています。
なお現在、カーンザの種は、世界中で絶対量が限られており、〈ランド・インスティテュート〉の管理監督のもと、北米地域以外に置いては特別に関係性の深い協力ブランドおよびそのパートナー研究者らによる試験目的での研究利用に限定して提供されています。
上記の理由から、日本国内においてパタゴニアおよび北海道大学からカーンザの種を提供することはできず、試験栽培圃場の見学のご希望やご質問に対応致しかねますこと、ご理解ください。
また、〈ランド・インスティテュート〉への問い合わせもお控えいただきますようお願いいたします。
地球を修復するビール
パタゴニア プロビジョンズでは多年生穀物カーンザをビールの醸造に使用しています。