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自然を育む日本酒

小川 彩 里山、湧水、田んぼを守る酒づくりとは
寺田本家が2021年から整備を始め、今年から自社で米づくりを始めた千葉県神崎町の谷津田の棚田。写真提供:寺田本家
豊かな湧水を育む里山の役割を見直し、米をつくり、おいしい日本酒を仕込む

里山と、自然の地形に沿って刻まれた棚田が織りなす風景の美しさは、環境が健全であることを示している。降り注ぐ雨は里山の森と大地に涵養され、湧き水となって棚田を潤しながら、ゆっくり海へと流れていく。棚田は雨水を一気に流さず、大地に浸透させながら下流へと送る天然のダムとして働いているのだ。

山を守ることは田んぼを守ること、そして田んぼを守ることは周辺の生態系の豊かさを保つこと。蔵や環境に息づく微生物の力を借りて仕込む自然酒づくりをする2つの蔵元が、里山の環境と役割を新たに見直している取り組みについて語った。

仁井田本家のある田村町。自然地形を生かした棚田は、里山の湧水をゆっくり海へと送る環境保全装置だ。写真:新井 ‘Lai’ 政廣
自社山のスギ林に立つ18代目当主の仁井田穏彦さん。スギを活用して木桶をつくる取り組みに力を入れる。写真:新井 ‘Lai’ 政廣
自社山のスギを活用した木桶で自然酒をつくり、山も人も元気に

福島県郡山市田村町は阿武隈川水系や溜池の恩恵に預かり、水が豊富な土地である。仁井田本家は、広大な山林と田畑を管理しながら、この土地で300年間、天然の水だけで酒づくりをしてきた。「山に手をつけるな」という家訓の元、開発とは縁のない里山を維持してきた当主の18代目、仁井田穏彦さんは、次世代にその豊かさを託すため、自社での米づくりを2003年から始め、現在はより豊かな環境づくりを視野に入れた経営を目指している。

そのひとつが木桶づくりだ。先々代は醸造業の傍ら林業も営んでいたが、先代の頃には伐採、間伐、植林の循環が途絶え、涵養力が乏しいスギ林が手付かずのままとなっていた。穏彦さんは径の大きな80年生のスギで木桶をつくり、仕込みに使おうと考えた。

「金属タンクをやめて、木桶を使う酒蔵、味噌蔵、醤油蔵が増えたら、スギを生かしながら、山を健康に保つよう手を入れられます。木桶をつくる福島県内の職人チームと協働し、昨年と今年で自社山のスギを使って1本ずつ桶をつくったのですが、自然の菌にとって心地よく安心して降りられる環境であることや、多孔質なので特に乳酸菌が棲みやすいことなどがわかりました。自然酒にとって、木桶はよき相棒なのです」

環境を整えることが目に見える生態系だけでなく、蔵に棲みつく微生物にも大きな影響を与えている。「周辺で大規模開発があると微生物が突然暴れ出すことがある」という醸造家の話を仁井田さんは教えてくれた。工業的に培養した株ではなく、自社の蔵や田んぼにいる微生物を育てて全量を仕込む、仁井田本家の自然酒の味わいは、土地の環境の健やかさというテロワールを表すものなのだ。

「仁井田本家が日本酒をつくり続けるから、この土地が豊かでいられるんだ、と地域から思われる、相思相愛の関係になることが夢なんです」

仁井田本家の木桶で盛んに発酵する自然酒。スギの木桶は保温性に優れ、自然の酵母や乳酸菌が活発に働く。写真提供:仁井田本家
微生物が息づく自然をより良くする喜びを米づくりを通して蔵人が体験し、自然酒づくりを深める

千葉県神崎町の寺田本家は、先達の仁井田本家に続き、かつて当たり前だった自然酒づくりを現代に取り戻した草分けの蔵元である。酒米は、長年契約をしている近在の農家さんたちから、無農薬無化学肥料で栽培するお米を買い取っているが、自社の取り組みとして、基盤整備された田んぼ1反歩で米をつくっていた。当主の寺田優さんは、さらに思いを込められる環境を探すなか、里山に囲まれた耕作放棄地に出会った。

「里山に囲まれた谷津田といわれる自然地形を生かした約1町歩の棚田を借りました。水が豊かに湧いておいしいお米が採れる一方、大型機械を入れづらくて手間がかかるため、長く耕作放棄地になっていました。下見で水源をたどって奥へと進んだら、水の湧き出しにサワガニがいてとても嬉しかったんです。こんな内陸なのに、と」

寺田さんは、心地よい風が吹き抜ける小高い森に囲まれた谷津田に、稲穂がなびく風景を思い浮かべ、もう一歩自然酒づくりを深めるために、ぜひここで酒米をつくりたいと思った。

寺田本家の谷津田。里山の湧水と井戸水を引いて田植えに漕ぎ着けた。周辺の森には猛禽類のサシバが棲息する。写真提供:寺田本家

昨年はシノダケに覆われたヤブのような土地を開墾し、湧水と井戸を復活させて、米づくりを今年ようやくスタート。耕作放棄地を田んぼとして復活させる営みを通して、水が豊富に湧き出す土地を育み、生態系を回復させる喜びを、蔵人とともに実感している。

「開墾して棚田の姿が回復してきた今年の2月くらいから、サシバという猛禽類が営巣しはじめたんです。生態系の頂点にある猛禽類がいる谷津田は、餌となる生き物の多様性が回復してきた証です。実はこの里山の反対側は土砂採取の開発が行われているのですが、良いお米、良いお酒をつくる自分たちの取り組みを通じて、水源である里山の森を残すきっかけになればと考えています」

寺田本家は地域の水を守るために置かれた神崎神社の麓にある。寺田さんは、こんこんと湧く仕込み水への感謝と、地域の方が神社を大切に思える環境を整えるために森を育てることも計画中だ。

自然からいただくものは米や水だけではなく、目に見えない微生物の健やかな働きもある。おいしい自然酒のために、美しい自然を育む。祈るようにすべてを調和させて酒づくりをする蔵人の営みは、蔵から田んぼへ、そして里山へと広がっている。

寺田本家では契約農家が継続して米をつくれるよう、次世代が農業を継承できるよう、持続可能な価格で酒米を買い取っている。仁井田本家も同様である。写真:新井 ‘Lai’ 政廣

自然を育む日本酒

小川 彩
展覧会の企画・キュレーション、書籍・雑誌のエディトリアルの仕事を通じて、建築・デザイン・工芸・アート・環境などの分野で知見を深める。現在、メディアやウェブサイトの制作、NPO法人、企業、プロジェクトのマネジメントやリサーチワークなどに携わっている。