土の値打ち
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環境再生型オーガニックで土壌を守る
ローズ・マーカリオ | 2016年12月8日
近年、世界中でオーガニック食品の生産、販売が急成長しているように見受けられます。世界のオーガニック食品市場は従来の方法で育てられた食品に比べて、2015年から2020年までに16%と速いスピードで成長する見込みです。
一見、喜ばしい話のように聞こえますが、実のところ、巨額の利益を生み出す大企業数社がコントロールする世界の農業システムのなかで、有機農業がまかなっているのはほんのわずかな部分にすぎないのです。そしてさらに事態は悪化しようとしています。現在検討中の取引を、欧米の取締官が認めるなら、バイエル、ダウ・デュポン、ケムチャイナの3社が世界の種子と農業用殺虫剤を3分の2も所有することになります。
この残念な現実が、何十年もの間、私たちを人質に取り、脅かしています。従来の農業は、生産や輸送のために膨大な化石燃料を消費し、有毒な合成殺虫剤を地球に蔓延させ、遺伝子組み換え作物(GMO)の種子で土壌の生態系の多様性のみならず私たちの食の味覚までも奪い、この地球を破壊し続けているままなのに。また、今、地球を温暖化させている温室効果ガス排出の4分の1が、従来の農業によるものなのです。
食物は全体のごく一部にすぎません。世界中の衣服の大半に使われている繊維である綿は、わずか1%だけが有機栽培で育てられています。パタゴニアがオーガニックコットン100%に切り替えた1996年以降、少なくともこの数値はほぼ変わりありません。世界で使われているすべての農業用殺虫剤の16% が綿の従来の栽培法に使われており、ガンなどの病気の高い発症率につながるものに身をさらしていると思うと本当にぞっとします。また、従来の遺伝子組み換え栽培は、生態系が多様で肥沃な土壌を減らし、より多くの水そして大量の除草剤を必要とします。そして、食物に含まれる栄養価を変えてしまい、川、湖、海を汚染する毒物を流出するのです。
幸いにも、この現状が唯一の選択肢というわけでありません。環境再生型有機農業には、徐々に基準値から土壌の有機物質を増やす、農家や牧場主にとって経済の長期的安定をもたらす、回復力の高い生態系とコミュニティを作るといったような農作業も含まれます。つまり、このアプローチは、地球と人類の健康を担う農業システムを再生するチャンスであり、その一方で世界何十億人もの衣食という明白なニーズも満たしてくれるのです。人間に必要なものの生産と土壌の再生を同時に行えることで、今、地球の環境を汚染し、温暖化を招いている二酸化炭素を封鎖できるのです。
良い傾向:近年、善意的な団体の数が少ないながらも増えており、積極的に環境再生型有機栽培を採用しています。特にこのアプローチ(および用語)は、ロデール・インスティチュートやリジェネレーション・インターナショナル(Regeneration International)といった団体に支持されてきました。その結果として、いくつかの企業が真剣に関心を持ち始めるようになったのです。パタゴニアでは、何年もかけて関心と知識を培ってきました。25年前に、有機栽培技術を採り入れようと天然繊維のサプライチェーンの再構築に着手し、綿に始まり、最近ではパタゴニア プロビジョンズのアパレルそして食品事業においても、環境再生型の取り組みを優先しています。
悪い傾向:企業、研究者、ジャーナリスト、専門家の数が増えることで、「再生」という言葉が「回復」「持続可能」「倫理的」などの言葉とほぼ同義語として、何の話をしているのか曖昧なニュアンスで使われるようになってきました。さらに悪い傾向として、従来の有機ではない農業にからめて「持続可能」という主張を目にすることも多くなっています。これは全くもって本来の趣旨にはそぐわないものです。殺虫剤や除草剤を土壌に同時に大量投入しながら、どうやって土壌の生態系を再建できるというのでしょうか。
危機に瀕している地球に膨大なメリットをもたらす、将来性のある農作業がこのまま骨抜きにされていくのを許してはなりません。単にリスクが大きすぎます。きちんと明確に定義されていない無意味な言葉が、「オーガニック」というラベルさえも信用できないくらいいたる所に氾濫し、混乱を招いています。また、既存の基準のなかには十分ではないものあります。例えば、多くの企業が「ベター・コットン・イニシアティブ」(BCI)に賛同していますが、このプログラムには環境的、社会的に重要な対策がいくつか含まれているものの、結局のところ、合成殺虫剤や遺伝子組み換え種子を使用するなど、依然として有害な従来の農作業が存続しているのです。
「環境再生型オーガニック」という言葉の使用には、「遺伝子組み換え種子や合成殺虫剤を明らかに使用していません。以上。」という農家の確固たる責任が反映されています。また、実際に大気から二酸化炭素を吸収し、地球を冷やすという健全な土壌の生態系を再建するためには、農家たちは地元に合わせた包括的な土地管理のアプローチを取らなくてはいけません。
環境再生型有機農業の直接的なメリットは、質の高い食物と繊維が得られるだけでなく、私たちが直面している大きな環境問題のなかでも、非常に重要な温室効果ガスの削減に対する有効な手段にもなるというすばらしいものなのです。実際のところ、これが気候変化に対して明らかな変化をもたらす最善の策かもしれません。多くの事例が物語っていますが、カーボン・アンダーグラウンド(Carbon Underground)によると、1ヘクタール分の農場の土壌が修復されることで、年間で二酸化炭素3トンも減らすことになるそうです。世界中で50億ヘクタールの農場が修復されると、150億トンという二酸化炭素の削減につながることになります。これが20年続くと、大気中の二酸化炭素を産業革命以前の濃度にまで減らすことができるでしょう。国連、そして2015年にパリで開催された気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)で結ばれたパリ協定で強調された予定目標に向かって、私たちは進んでいます。
その副産物には、汚染の減少、生態系の多様性の促進、野生に対する脅威の減少、より健全な川、ガンや呼吸器系疾患など環境的な要因が招く公衆衛生のリスク削減など、まだまだたくさんあります。
巨大農業資本の利害からのメッセージと異なり、環境再生型有機農業は増え続ける地球の人口に対し、現行のシステムよりももっと持続可能に 食を供給するという私たちのニーズにも応えることができます。従来の農業はより生産性が高いですが短命にすぎません。環境再生型有機栽培による収穫量は、特に化学物質で劣化した土壌の場合、はじめは低くなりがちですが、土壌の微量要素が調子を取り戻すとそれも改善されます。そのうち、有機農業が従来の農業をしのぐでしょう。ただし、例外もあります。例えば、オーガニックコットンに関していえば、従来の農業よりも低い収穫量となるかもしれません。ですが、収穫量の減少よりも土壌(や農場で働く人)の健康を重要視するという利点があります。
結論:大衆に食を提供するというだけでなく、環境危機の解決をサポートするツールとして農業を活用していくのであれば、具体的に取り組む必要があります。いえ、この危機を乗り切りたいのなら、そうしなければならないのです。ロデール・インスティチュートのように、企業も農家も環境再生型有機農業の明確な定義を推進するべきです。そうすれば、企業と消費者が同じように、現行システムを変えようと自信を持って決断し、共に前へ進むことができるでしょう。
パタゴニアは、1990年代半ばに初めてオーガニックコットンのサプライチェーンを開拓した際、有機栽培は、農業を通じて地球と人類の健康を守るという長い旅路を行くほんの1歩にすぎないことを実感しました。それ以降、当社は多くを学び、現在、事業に環境再生型有機農業を組み込むように積極的に取り組んでいます。成長している食品事業であるパタゴニア プロビジョンズでは、すべての製品において環境再生型土壌や再生可能な漁業活動への責任を反映するようにしています。社内のベンチャー基金であるティンシェッド・ベンチャーズを通じて、パタゴニアは新たな環境再生型企業(や水や石油の使用の削減、排除に取り組む人たち)への投資を行っています。
環境再生型有機農業が、簡単に定着するものではないことは承知しています。事実、環境再生型有機栽培は、その土地の土壌や天候、より具体的に順応したハイブリッド型の開発、土地利用やコミュニティ計画に対するより包括的なアプローチにしっかりと注意を払うことが必要です。それでも環境再生型有機農業は、環境における人類への影響を減らすだけではなく、私たち人間が招いた膨大な損害を実際に修復し始めており、危険な状態にある地球を救うチャンスといえます。
企業のリーダーたちはこの課題に対応すべく、勇気とリーダーシップを持たなければなりません。現状を有意義に打開できれば、環境再生型有機農業を利用した製品を作り、偽善的な環境保護や安価な代替品を許さない気づきや新たな責任が人々に生まれ、私たちは大きな規模で本当に変わることができるはずです。
当社が学んだことや環境再生型有機栽培を採用している当社のサプライチェーンのこと、そしてこの重要な活動をさらに推進するために共に連携する企業や団体のことなど、パタゴニアの取り組みについて、引き続き皆さまにお伝えしていきます。
こちらの動画をご覧ください。環境再生型有機農業がどのようなものか1分で分かります。もっと深く知りたいという方は、最近公開されたクリス・マロイの動画『Unbroken Ground』(未開の領域)(25分)をご覧ください。工業化された陳腐な農場で作ることができるどんな作物よりも、はるかに栄養価が高くて美味しい高品質な食物を作ることに協力している4つのグループによるすばらしい内容となっています。
この記事は、パタゴニアのブログ『クリーネストライン』で紹介されたものです。